有形簿価(Tangible Book Value、TBV) とは、企業の純資産(自己資本)から無形資産(のれん、特許、ブランドなど)を差し引いた、実体のある資産の価値です。企業の実質的な資産価値を保守的に評価します。
有形簿価の計算式
有形簿価 = 純資産 - 無形資産
または
有形簿価 = 総資産 - 総負債 - 無形資産
無形資産:
・のれん
・特許権
・商標権
・ソフトウェア
・顧客リスト
・開発費資産化分
有形簿価の計算例
A社の貸借対照表:
総資産: 1,000億円
総負債: 400億円
純資産: 600億円
無形資産の内訳:
のれん: 200億円
特許権: 50億円
ソフトウェア: 50億円
合計: 300億円
有形簿価 = 600億円 - 300億円 = 300億円
→ 実質的な資産は300億円
有形簿価と純資産の違い
| 項目 |
純資産(BV) |
有形簿価(TBV) |
| 計算 |
総資産 - 総負債 |
BV - 無形資産 |
| 含むもの |
すべての資産 |
有形資産のみ |
| 保守性 |
普通 |
保守的 |
| 活用場面 |
一般的評価 |
M&A、清算価値 |
有形簿価が重要な理由
| 理由 |
説明 |
| 実質価値 |
無形資産を除いた実体的価値 |
| 清算価値 |
倒産時に回収できる価値の目安 |
| M&A評価 |
買収時の最低価値の目安 |
| 保守的評価 |
悲観的シナリオでの価値 |
有形簿価倍率(PTBV)
PTBV = 株価 ÷ 1株当たり有形簿価
または
Price to Tangible Book Value Ratio
例:
株価: 1,000円
1株当たり有形簿価: 500円
PTBV = 1,000 ÷ 500 = 2.0倍
解釈:
1.0倍未満 = 有形簿価割れ(割安)
1.0〜2.0倍 = 適正水準
2.0倍以上 = 割高(無形資産に価値)
PBVとPTBVの比較
A社の例:
株価: 1,000円
1株当たり純資産(BV): 800円
1株当たり有形簿価(TBV): 400円
PBV = 1,000 ÷ 800 = 1.25倍
PTBV = 1,000 ÷ 400 = 2.5倍
→ PBVは割安に見えるが、
PTBVで見ると割高
→ 無形資産が多い企業
有形簿価が重要な業種
| 業種 |
重要度 |
理由 |
| 銀行・金融 |
高 |
実体資産が重要 |
| 製造業 |
高 |
設備・在庫が多い |
| 不動産 |
高 |
土地・建物が資産の主体 |
| IT・ソフトウェア |
低 |
無形資産が価値の源泉 |
| 製薬 |
低 |
特許・R&Dが価値 |
有形簿価割れ(PTBV<1.0)の意味
株価が有形簿価を下回る:
ポジティブな見方:
・割安、バリュー投資のチャンス
・清算価値以下で買える
ネガティブな見方:
・市場が企業の継続性を疑っている
・将来の収益性に問題
・資産の質に疑問(不良資産)
有形簿価マイナスの企業
有形簿価がマイナス:
無形資産 > 純資産
例:
純資産: 100億円
無形資産: 150億円
有形簿価 = 100 - 150 = -50億円
意味:
・M&Aで多額ののれんを計上
・実質的な資産は債務超過状態
・のれん減損リスクが高い
金融機関の有形簿価
銀行の評価で重視:
BIS規制(自己資本比率規制)では
無形資産は自己資本から控除される
→ 有形簿価が銀行の本当の体力
→ 金融危機時の重要指標
例: リーマンショック時
多くの銀行が有形簿価割れ
→ 実質的に債務超過の懸念
有形簿価の推移分析
| 推移 |
意味 |
| 増加傾向 |
実質的な資産の蓄積 |
| 減少傾向 |
資産の目減り、M&A増加 |
| 急増 |
増資、大型資産取得 |
| 急減 |
のれん減損、大規模M&A |
無形資産の種類別リスク
| 無形資産 |
リスク |
| のれん |
減損リスク大(買収失敗) |
| 特許権 |
期限切れ、陳腐化 |
| ソフトウェア |
技術革新で無価値化 |
| 商標権 |
ブランド価値の毀損 |
| 顧客リスト |
顧客離れ |
有形簿価と清算価値
清算価値の概算:
有形簿価 300億円
実際の清算では:
・在庫: 簿価の50%で処分
・設備: 簿価の30%で処分
・売掛金: 90%回収
・土地: 時価で売却
→ 有形簿価の60〜80%が
実際の清算価値の目安
M&Aでの有形簿価の活用
買収価格の評価:
対象企業の有形簿価: 500億円
買収価格: 1,000億円
のれん = 1,000 - 500 = 500億円
評価:
・のれんが大きい(100%)
・減損リスクが高い
・シナジー効果が発揮されないと危険
有形簿価の注意点
| 注意点 |
説明 |
| 会計基準 |
IFRSと日本基準で違い |
| 資産評価 |
簿価は時価ではない |
| 業種特性 |
IT企業には不向き |
| 成長企業 |
将来性を過小評価 |
バフェットの見方
ウォーレン・バフェットの考え:
「有形簿価だけで判断するのは時代遅れ」
理由:
・コカ・コーラのブランド価値は膨大
・Appleのエコシステムは無形資産
・Googleの検索技術は特許以上の価値
→ 無形資産も企業価値の一部
ただし、保守的評価では有形簿価を重視
投資判断での活用
| チェックポイント |
内容 |
| PTBV |
1.0倍未満は割安候補 |
| 無形資産比率 |
無形資産÷純資産 |
| のれん比率 |
のれん÷純資産 |
| 同業比較 |
競合他社との比較 |
Welvioでの活用
Welvioで保有銘柄の有形簿価と無形資産の内訳を確認し、実質的な資産価値と無形資産リスクを評価できます。PTBV を計算して割安度も判断できます。