トータルリターンスワップ(Total Return Swap / TRS) とは、特定の資産(参照資産)から生じるトータルリターン(値上がり益/値下がり損+配当・利息)と、固定金利または変動金利を交換するデリバティブ取引です。資産を実際に保有せずにそのリターンを得る(または移転する)ことができます。
トータルリターンスワップの仕組み
トータルリターンの受取側(プロテクション売り手):
参照資産のリターン全体を受け取る
= 値上がり益 + 配当/利息
代わりに固定金利(SOFR + スプレッド等)を支払う
トータルリターンの支払側(プロテクション買い手):
参照資産のリターン全体を支払う
代わりに固定金利(SOFR + スプレッド等)を受け取る
受取側 支払側
← トータルリターン ←
→ 固定/変動金利 →
具体例
前提:
参照資産: A社株 100万円分
契約期間: 1年
金利: SOFR + 1%(年率3%とする)
1年後にA社株が10%上昇した場合:
受取側の損益:
受取: 値上がり益 +10万円 + 配当 +3万円 = +13万円
支払: 金利 3万円
→ 純利益 +10万円
受取側は株式を保有していないのに
A社株のリターンを享受できる
1年後にA社株が10%下落した場合:
受取側の損益:
受取: 値下がり損 -10万円 + 配当 +3万円 = -7万円
支払: 金利 3万円
→ 純損失 -10万円
TRSの活用目的
| 目的 |
説明 |
| レバレッジ |
少額の証拠金で大きなポジション |
| 所有権の回避 |
規制・開示要件を避けて経済的利益を得る |
| 信用リスクの移転 |
参照資産の信用リスクを移転 |
| 税務上の理由 |
資産の保有形態を変えることで税務メリット |
| ヘッジ |
保有資産のリスクを移転 |
| 資金調達 |
資産を売却せずにキャッシュを得る |
TRSの活用事例
事例1: ヘッジファンドのレバレッジ
ヘッジファンドが1億円のTRSを締結
→ 証拠金は数千万円で済む
→ 1億円分の株式リターンを得られる
→ 実質的なレバレッジ効果
事例2: 大株主の保有回避
大量保有(5%超)の報告義務を避けたい場合
→ TRSで経済的利益だけを享受
→ 形式上の「保有」には該当しない場合がある
(※規制は各国で異なり、近年は規制強化の傾向)
事例3: アルケゴス事件(2021年)
→ TRSを使って大量のレバレッジポジションを構築
→ 株価急落で巨額損失(約100億ドル以上)
→ 取引相手の金融機関にも大損害
アルケゴス事件の教訓
2021年 アルケゴス・キャピタル・マネジメント:
・ファミリーオフィス(個人資産運用会社)
・TRSを使って約200億ドル超のレバレッジポジション
・複数の銀行と同時にTRSを締結
・各銀行は他行との取引規模を把握していなかった
結果:
・一部銘柄の株価急落でマージンコール
・ポジション強制清算
・取引相手の銀行(クレディ・スイス等)に約100億ドルの損失
教訓:
・TRSの不透明性(規制の死角)
・カウンターパーティリスクの重要性
・レバレッジの危険性
→ 規制当局がTRSの開示要件を強化する契機に
TRSのリスク
| リスク |
説明 |
| カウンターパーティリスク |
取引相手が支払い不能になるリスク |
| レバレッジリスク |
少額の証拠金で大きな損失 |
| 流動性リスク |
ポジション解消が困難な場合 |
| 法的リスク |
契約条件の複雑さ |
| 規制リスク |
各国の規制変更の影響 |
TRSと他のデリバティブの比較
| 商品 |
受け取るもの |
支払うもの |
| TRS |
参照資産のトータルリターン |
固定/変動金利 |
| CDS |
デフォルト時の補償 |
定期的なプレミアム |
| 金利スワップ |
固定金利(または変動金利) |
変動金利(または固定金利) |
| 株式スワップ |
株式リターン |
金利 |
Welvioでの活用
Welvioでデリバティブを活用した運用商品の仕組みを理解し、TRSを含むファンドのリスク特性を把握した投資判断に活用できます。